彩度
女は思った。
最近無いな。
子供の頃にあれほど生き生き見えていたもの。
あの頃
毎日が色鮮やかだった。
夏休みの前、荷物が多いからと学童に行かなくてよい日は特別な感じがした。
学校から家に帰る間だけでも、冒険だった。
毎回必ず犬が狂ったように吠える場所。
裏道の人気のない道は誰か潜んでいるのではないかと走り抜ける。
葉っぱの裏に幼虫の卵を見つけたり、ノビルやフキノトウを見つけたり、カナヘビを探したり嬉しい時には胸に空気が満ちている感覚だった。
親や先生に怒られた時あるいは友達の一言で胸に針が刺さった。
良く晴れた暑い日にはアスファルトの上に透明な煙のようなものが揺らめいている。
透明な煙の中を歩いてゆく。
雨の日には、アスファルトの水溜まりに虹色の美しい筋が輝いていた。
母が「車の油が零れたのよ」と言った。
色相
今はアスファルトに太陽の光が反射してキラキラして美しいなと思う事があっても、陽炎や虹色の水溜まりは見られない。
時の流れで環境が変わったのか、私の見るものが変わったのか分からないけど。
人との関りでは胸に針が刺さる前に、方向転換することも覚えた。あの痛みを感じたくないからだろう。
こうして過去を振り返ってみても、まるで他人の人生のような気がする。
人生は一瞬光っては消えてゆくカゲロウのようなものの連続だ。
それなら少しだけ怖いけどワクワクする事をやってみるのはどうだろう?
MIHOKO