心震えて泣いた~影と闇~

影のなかみ

随分前に師匠から写実的な絵の上手な人は影の中を複雑に刻んでゆくことが出来るという事を教えてもらった。

デッサンを始めたばかりの頃は明るさの諧調を形として観ることが難しい。
影は闇なのだ。
そこをさらに見てゆくと影の中に徐々に形が見えてくる。
暗い部分の明るさは明るいように見えて光が当たっている部分の明るさよりはずっと暗いのだ。
大きな明暗と小さな明暗を整理整頓して観ていく事出来たら言う事なしだろう。

厳密にいえば、対象の暗い面が「陰」で接地面に落ちるのが「影」だ。

しかし、観れたとして、それを画面に現してゆくことは更に難しい。

闇のなかみ

私は一年ばかり、自分の闇の部分を表現することを考え続けた。
それまでの自分の「癖」は、闇の部分は見ないようにして、光ばかりを求めていた。

でもそれだと、現実の世界が完成しないのだ。
デッサンの様に。

闇の部分は上手に料理したら、重厚感のある深みのあるご馳走になるに違いない。
捨ててしまうのは勿体ないのだ。

そう教えてくれた人がいる。
私は随分と安らかに生きられる様になった。

私は誰かの映画や作品を観て、心動かされて涙を流すことは稀だ。
しかしアマプラで「彼女がその名を知らない鳥たち」を見終わった時、心が震えて涙が溢れた。
はっきり理解出来たことがある。私の中で何かが変わったのだ。

MIHOKO